DNA Climate Project

Challenge to the new generation cloud
resolving climate simulation

2021年8月6日

モデル解像度と雲


 気象予報や気候予測には大気の数値シミュレーションモデルが利用されています。ここでのモデルとは大気のふるまいを記述した方程式の時間変化をコンピューターで計算するためのプログラムの集まりのことを指します。動画メディアを例にとれば時間当たりに何コマ表示するか(フレームレート)や一つの画面をどれだけ細かく表示するか(ピクセル数)といった指標があります。同様にシミュレーションモデルでは本来なめらかな大気のふるまいはコンピューターが扱える「とびとびの値」に変換(離散化)されており、その離散化の度合い、解像度は注目したい現象の時間的・空間的な大きさに応じて設定されます。たとえば地球温暖化の数値シミュレーションで大気を水平、鉛直に格子状に区切ってそれぞれの点での時間変化を扱う方法では、地球全体の大気に対して水平方向に約100キロメートル、鉛直方向に数百メートルのモデル格子間隔を設定することが多いです。また日本の気象庁では数時間程度先の大雨などの予測には水平2キロメートル格子のモデルを、数時間から1日先の現象の予報には水平5キロメートル格子のモデルを使っています。時間解像度は空間解像度に応じて、安定してシミュレーションが実行できるような値を設定します。

 同じモデルや開始時点の設定を用いていても、数値シミュレーションで再現される大気現象の動きは解像度によって大きく変化します。これは離散化された大気はそのモデル格子よりも小さい空間的な大きさで起こる現象を直接表現することができないため、格子点上の物理量からより小さい現象の効果を求めるパラメタリゼーションという手法がさまざまな過程に対して導入されていることに関係しています。積雲は一つ一つが水平方向に数キロメートル程度の大きさを持ちます。長期的な地球温暖化の予測などを扱う気候モデルでは格子サイズが約100キロメートルと大きいため、積雲に対してパラメタリゼーションが用いられ、積雲に伴う対流が熱や水蒸気を鉛直方向に運ぶ効果をモデル格子内で平均した量として推定します(図1左)。

 一方で解像度をより細かくして水平1キロメートル程度より小さくなると、積雲のパラメタリゼーションを導入せずに一つ一つの雲に関わる大気の流れを複数の格子点で直接的に表現できるようになります。このようなシミュレーションモデルは雲解像モデルと呼ばれてきました。雲解像モデルの場合はコンピューターでの計算量が大きくなるため,比較的小さな領域で短い期間の詳細なシミュレーションを行うのに使われるのが一般的です(図1右)。

図1 気候モデル(左)と雲解像モデル(右)のイメージ。青色の濃い部分ほど雲ができる条件を満たしていることを表す。気候モデルでの雲は水平100キロメートル程度の格子サイズの量からパラメタリゼーションによって推定される。

研究参画者 神野 拓哉
東京大学 大学院理学系研究科

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