DNA Climate Project

Challenge to the new generation cloud
resolving climate simulation

2021年10月11日

トランスバースラインとは?


図1のような雲の縞々しましまの構造をトランスバースラインまたは巻雲バンドと呼びます。この周辺では乱気流がよく発生するため、航空機を運航するうえで注意が必要な現象です。この現象は偏西風が特に強まっているエリア「ジェット気流」や、台風などの周囲に現れることがあり、出現する高度はたいてい地表から10〜15kmです。縞の間隔が数十kmと大きいため、地上から見て気付くことは難しいですが、衛星画像ではよく目立ちます。

図1 2021年8月13日12:00(日本時間)に気象衛星ひまわり8号が観測した赤外画像。赤く囲った部分に見られる雲の縞々構造をトランスバースラインまたは巻雲バンドと呼ぶ。


トランスバースラインがよく生じる場所であるジェット気流では風速が高度によって大きく変わるため、強い「風のすれ違い」が起きています。このような条件下では、すれ違う風から渦が生まれて成長していくケルビン・ヘルムホルツ不安定という現象(図2左)が起きることがあります。こうして生じる渦では上昇気流と下降気流が交互に並び、上昇気流の部分のみで雲ができることで、縞々の雲になることがあります。そのため従来は、トランスバースラインは風のすれ違いによるケルビン・ヘルムホルツ不安定で生じると考えられてきました。

一方、近年の計算機の発達でトランスバースラインを再現するシミュレーションが行えるようになり、トランスバースラインの内部が「上部が低温・下部が高温」になっている事例が複数発見されました*1。このような状況では、上側の空気のほうが重く、下側の空気のほうが軽い*2ため不安定で、上側の空気が沈んで下側の空気が浮くという対流が起きます。この対流はレイリー・ベナール対流と呼ばれ、ケルビン・ヘルムホルツ不安定とは別の現象ですが、やはり上昇流の部分のみ雲が厚くなることで縞々の雲ができることがあります。

図2 ケルビン・ヘルムホルツ不安定(左)とレイリー・ベナール対流(右)の図解。太い矢印は風を表す。


温度計・湿度計を搭載した気球を上空に揚げるラジオゾンデ観測でも、日本周辺のトランスバースラインの内部でレイリー・ベナール対流が起きるような不安定層が観測されています。そのため、トランスバースラインの成因は従来考えられていたケルビン・ヘルムホルツ不安定でなく、レイリー・ベナール対流である可能性が指摘されています。

雲は降り注ぐ太陽光や地球からの熱放射を遮るため、地球全体の気候に影響を及ぼします。その一方で上に述べたトランスバースラインのように、その場の細かい条件によって複雑に振る舞う側面も持っています。そのため、気候システムを精度よく理解するためには、雲の振る舞いをつかさどるさまざまな過程に関する理解も深めていく必要があります。


*1 より正確には、「水蒸気が飽和しており、かつ上部が低相当温位・下部が高相当温位」

*2 正確には、上側と下側の空気を同じ気圧にして比べたときに、上側からの空気のほうが密度が高い

研究参画者 山崎 一哉
東京大学 大学院理学系研究科

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