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2022年4月21日

海の“換気”


海は大気と水や二酸化炭素をやり取りすることで、私たちの気候に大きな影響を与えることが知られています。たとえば、海は人間の活動によって出た二酸化炭素の約30パーセントを吸収していることが知られており、地球温暖化の原因である二酸化炭素を吸収する海には地球温暖化を抑える働きがあると言えます。また、大気から受け取った雨水などの淡水も海面から海の中に運ばれます。図1は北太平洋3月における塩分分布の南北断面図です。これを見ると、低塩分水(青色の部分)、つまり淡水を多く含む海水が北緯30度から40度付近で海の中に沈み込んでいる様子が確認できます。このように、大気から受け取った物質を海の中に運び込む効果をベンチレーション(ventilation)と言います。ベンチレーションは英語で“換気”を意味する言葉です。

図1. 北太平洋で東西平均した3月の塩分(実用塩分尺度PSS-78)の南北断面図。深さは圧力単位で示しており、1dbar≒1m。また、実用塩分尺度は、海水1000gに含まれる塩の量とおおよそ一致する(例:実用塩分尺度34≒塩分3.4%)。

ベンチレーションはいつでも起きているわけではなく、冬にのみ起きることが知られています*1。これには、海水の重さが関係しています。水は塩分が高いほど、また温度が低いほど重くなりますが、海面付近にある低塩分の水は海の中の水よりも軽いため、そのままでは海の中に沈み込んでいくことは出来ません(図 2(a))。しかし、冬は大気によって海面が冷やされ、海面の水も重くなります。そのため、海面の水が海の中に沈み込み、さらに海の中の水と混じり合うことで、“換気”することが出来ます(図 2(b))。

図2 (a)海面と海の中の関係。夏季は海面が日射によって温められるため、海面の水が軽くなり沈み込むことが出来ず、ベンチレーションも起こらない。(b)冬季になると海面の水が冷たくなり沈み込み、海の中の水と混ざる。

ベンチレーションと気候変動の関係を理解することは海洋学の重要なテーマの一つです。たとえば、ベンチレーションはエルニーニョ等の気候変動に影響を与える可能性が指摘されています*2。また、地球温暖化によって温められた海面付近の水がベンチレーションによって深海に蓄えられることも知られています*3。現在の気候モデルでもベンチレーションの完全な再現は出来ておらず、気候変動・気候変化の将来予測を困難なものにしています。


参考文献
*1 Williams, R. G. (1991). The role of the mixed layer in setting the potential vorticity of the main thermocline. J. Phys. Oceanogr. 21, 1803–1814. doi:10.1175/1520-0485(1991)021<1803:TROTML>2.0.CO;2.
*2 Zhang, R. H., Rothstein, L. M., and Busalacchi, A. J. (1998). Origin of upper-ocean warming and El Nino change on decadal scales in the tropical Pacific Ocean. Nature 391, 879–883. doi:10.1038/36081.
*3 Kawakami, Y., Kitamura, Y., Nakano, T., and Sugimoto, S. (2020). Long‐Term Thermohaline Variations in the North Pacific Subtropical Gyre From a Repeat Hydrographic Section Along 165°E. J. Geophys. Res. Ocean. 125. doi:10.1029/2019JC015382.

研究参画者 松田 拓朗
東京大学 大学院理学系研究科

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