DNA Climate Project

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2022年9月15日

太平洋とインド洋を繋ぐ暖水プール


水は同じ質量の空気より多くの熱を蓄えることができ、海洋全体では大気全体と比べて1000倍以上の熱容量を持っています。この性質から海洋は大量の熱を蓄積しており、大気と熱のやりとりをすることで気候や気象に大きな影響を与えています。なかでも海洋の蓄熱量が地球上で最も多いのが西太平洋から東インド洋にかけての赤道付近で、他の海域に比べて高い海面水温を示しています(図1)。特に一年を通して海面水温が28℃を下回らない海域はWarm pool(暖水プール)と呼ばれます。暖水プールは蓄えた大量の熱を大気に供給するため、赤道域に沿った大規模な上昇気流と下降気流が組み合わさった大気循環の主要なエネルギー源となっている海域です。

図1 1991年から2020年の平均海面水温

また暖水プールは太平洋とインド洋をつなぐ海域を含んでいます。この海域には太平洋側からインド洋に向かって流れるインドネシア通過流と呼ばれる海流が存在し、二つの大洋の間での熱のやり取りも担っています。海洋の水は図2に示されるような流れに乗り1000年以上の時間をかけて世界の海洋を巡ることで温和な気候を維持しており、インドネシア通過流はこの循環の一部と考えられています。そのためこの海流の変動は地球全体の海洋・気候の変動を考える際に重要です。例えば東太平洋赤道域の海面水温が平年と比べて低くなるラニーニャ現象時にはインドネシア通過流は強くなってより多くの熱を東インド洋へ運び、逆に東太平洋で海面水温が平年より高くなるエルニーニョ現象時には弱くなります*1。その結果、地球全体の海洋循環に影響を及ぼす可能性がありますが、詳細は未だ明らかになっておらず、インドネシア通過流と海洋大循環との関係は海洋学の重要なテーマです。

図2 海洋大循環の概念図。暖かい表層海流と冷たい深層海流から成る。

このように暖水プールは大気・海洋の循環にとって非常に重要です。近年では地球温暖化に伴って暖水プールが拡大している可能性があること*2や、インドネシア通過流の強度が減衰している可能性が指摘されており*3、これらについての理解が進むことで気候予測の精度向上が期待されます。


参考文献
*1 Meyers, G. (1996). Variation of Indonesian throughflow and the El Niño‐Southern Oscillation. Journal of Geophysical Research: Oceans, 101(C5), 12255-12263.
*2 Weller, E., Min, S. K., Cai, W., Zwiers, F. W., Kim, Y. H., & Lee, D. (2016). Human-caused Indo-Pacific warm pool expansion. Science Advances, 2(7), e1501719.
*3 Sun, S., & Thompson, A. F. (2020). Centennial changes in the Indonesian Throughflow connected to the Atlantic meridional overturning circulation: The ocean’s transient conveyor belt. Geophysical Research Letters, 47, e2020GL090615.

研究参画者 寺田 雄亮
東京大学 大学院理学系研究科

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