DNA Climate Project

Challenge to the new generation cloud
resolving climate simulation

2022年12月19日

積雲の表面で起こるエントレインメント


積雲は晴れた日中によく見られるモコモコとした背の高い雲です。積雲の中では、水蒸気が凝結して液体になり、水の状態変化にともなう熱が発生しています。この熱で暖められた空気は周囲の冷たい空気よりも軽いために浮力を受けて、強い上向きの流れを作ります(図1左)。積雲はこの上昇する空気に乗せて様々な状態の水や熱を上下方向に運ぶプロセスであると考えることができ、地球上のいたるところで発生して地球全体の大気の状態に大きな影響を与えています。

雲は一般に周囲の状況によって様々な姿で現れますが、なかでも積雲のモコモコとした表面の形は、その内側と外側の空気がかき混ぜられることによってできています。積雲の表面では乱流と呼ばれるランダムでとてもスケールが小さな空気の運動が起こっています。乱流によって積雲の外側の冷たく乾燥した空気は内側の上昇する空気に引きずり込まれ、両者が混ざり合うことになります。これをエントレインメント(entrainment)と呼びます(図1右)。積雲の内側の空気は多くの水蒸気や水滴を含んでいるため、エントレインメントは乾燥した空気によって湿った空気を薄めることに相当します。エントレインメントが起こる間に積雲の内部に含まれる氷や液体の水のうち一部は気体に変化し、状態変化にともなって熱が吸収されることで積雲の内部を冷やすはたらきをします。その結果、浮力によって上昇する流れが弱められることになります。この効果は積雲の周囲の空気が乾燥しているほど強くなります。

図1
左:浮力による雲の内部の上昇流と雲表面の乱流
右:雲の側面を通して外側の乾燥した空気が内側に取り込まれる様子

空間解像度の粗い大気シミュレーションでは格子点上の量からより小さい現象の効果を求めるパラメタリゼーションが用いられますが(コラム第一回参照)、積雲のパラメタリゼーションが使われる場合にはその中でエントレインメントによる影響も計算する必要があります。エントレインメントの強さは大気の温度や湿潤度合いによって変化し、また積雲の最も下の層と最も上の層の近くで大きくなるといった傾向があります。数値モデルにはこうした性質をうまく表現するためのさまざま手法が考案されて組み込まれています。エントレインメントの強さをどのように計算するかによって積雲の上昇流の速さなど重要な特徴が変化し、結果的に地球全体の積雲の活動の様子も変わることが知られています。


参考文献
Yanai, M., S. Esbensen, and J. Chu, (1973). Determination of Bulk Properties of Tropical Cloud Clusters from Large-Scale Heat and Moisture Budgets. J. Atmos. Sci., 30, 611–627
浅井冨雄, 大気対流の科学 大気運動の素過程を探る(気象学のプロムナード14), 東京堂出版

研究参画者 神野 拓哉
東京大学 大学院理学系研究科

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