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resolving climate simulation

2023年4月7日

赤道域から亜熱帯にかけた海洋上層の南北循環


太平洋、大西洋、インド洋の三つの大洋では、水面から深さおよそ500mまでの層で水が南北方向に流れる循環が存在しています。このうち太平洋、大西洋の南北循環は亜熱帯セル、インド洋の南北循環は赤道を横切るセルとそれぞれ呼ばれており、振る舞いが大きく異なります*1

太平洋、大西洋では赤道付近で深くから水が湧き上がり、その水が北半球では北向き、南半球では南向きに流れます。これらの水は亜熱帯まで流れると海面から深くに沈み込み、再び赤道へ向かって流れます。この亜熱帯から赤道へ戻ってくる経路としては海洋の西岸に沿って流れる経路と海洋内部を直接流れる経路があり、それら両方が合わさってこの南北循環の強さを決定しています(図1左)。

図1
太平洋(左)とインド洋(右)それぞれの浅い南北循環の模式図。上図青色と緑色の領域はそれぞれ水の沈み込み、湧き上がりが起こる領域を表す。赤矢印は海洋表層の流れ、黒矢印は海洋の深いところの流れを表す。下図は大洋全体で見た時の南北方向の循環の様子。

一方でインド洋では、循環の振る舞いが異なります。インド洋では赤道付近ではなく、北半球側で水が湧き上がります。湧き上がった水は赤道を横切り北半球から南半球へ流れた後沈み込み、再び赤道を横切り北半球へ戻ってきます(図1右)。

これらの循環により水温や塩分の異なる赤道と亜熱帯の水(インド洋だと北半球と南半球の水)は互いの場所を行ったり来たりします。したがって、ある緯度の海域で生じた水温変動がこの循環を介して長い時間をかけて別の緯度の海域の水温へ影響を及ぼすことになります。このような大洋の広い範囲で生じる水温変動は長期的な海洋と大気の間の熱交換にも影響を与えるので気候変動の観点においても重要です。例えば太平洋の南北循環には10年以上の長さでのとてもゆっくりとした変動があることが知られており*2、熱帯東部太平洋の海面水温が平年と比べて高くなるエルニーニョ現象の長期的な変動とも関連があると考えられています。この南北循環の強さは湧き上がりや沈み込みなど様々な過程を通して決定されるので、モデルの中で高精度に再現することが難しいことが分かっています*3


参考文献

*1 Schott, F., McCreary Jr., J.P., Johnson, G., (2004). Ocean–Atmosphere Interaction and Climate Variability, Geophys. Monogr. Ser. AGU, Washington, DC, pp. 261–304.

*2 Feng, M. J. McPhaden, and T. Lee, 2010: Decadal variability of the Pacific subtropical cells and their influence on the southeast Indian Ocean. Geophys. Res.
Lett., 37, L09606

*3 Li, Y., F. Wang, and Y. Sun, 2012: Low-frequency spiciness variations in the tropical Pacific Ocean observed during 2003–2012. Geophys. Res. Lett., 39, L23601

研究参画者 久住 空広
東京大学 大学院理学系研究科

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