DNA Climate Project

Challenge to the new generation cloud
resolving climate simulation

代表挨拶Greetings


平成30年7月の西日本豪雨や令和元年10月の台風19号など、顕著な豪雨災害が毎年のように発生するようになっており、地球温暖化が進行すると強い雨が増加するという気候モデルの予測が現実になりつつあるように感じられます。一方で、現在の気候モデルによる将来予測には限界があり、例えば、市町村単位の豪雨発生確率の将来予測のようなことは原理的に不可能です。学術変革領域研究(B)「Deep Numerical Analysis(DNA)気候学への挑戦」の目標は、このような気候モデルの限界を克服し、気候シミュレーションを変革することです。

気候モデルは、静的な雲を仮定した1次元放射平衡モデルである第1世代、3次元大気循環を計算し雲を動的に診断した第2世代、静的な海洋が結合した第3世代、3次元海洋循環が結合した第4世代、複雑な化学反応や炭素循環を解析できる第5世代と、コンピュータの高速化の恩恵を受けて発展してきました。このような世代分けは便宜的なもので、“団塊世代”や“バブル世代”のように曖昧さを含みますが、2020年代に実用化が見込まれる全球雲解像モデルによる気候シミュレーション(第6世代)は、これまでの気候予測とは明確に一線を画すもので、気候予測研究にパラダイムシフトが起こると見込まれます。

全球雲解像モデルを用いる第6世代気候モデルと第5世代以前との最大の違いは雲の表現にあります。第5世代以前は、計算速度の制約等により、雲の生成・発達・衰退・消滅の時間変化が直接に計算できなかったため、雲の広がり・厚みなどを大域的なエネルギー収支や局所的な気温・相対湿度などから推定し、謂わば“架空の雲”の熱力学的・光学的効果を計算していました。第6世代気候モデルでは、水蒸気が凝結して雲粒を作り、雲粒が凝集して雨を生成したりする雲の生成・消滅の物理プロセスを雲微物理の方程式を使って直接に計算できるようになります。架空の雲から実体の雲へ、これが第5世代から第6世代への進化です。

本研究領域では、設計図(デオキシリボ核酸; DNA)に従って細胞や器官が自発的に形成される生物のあり方になぞらえ、より深い階層のミクロの設計図(雲微物理の方程式)に従って台風やマッデン・ジュリアン振動に内在する雲の階層構造が自発的に数値計算される第6世代気候モデルを活用する気候研究を、Deep Numerical Analysis(DNA)気候学と称しました。

2000年代に「地球シミュレータ」の恩恵を受けて世界に先行した日本の全球雲解像モデルNICAMの研究は、世界的な第6世代気候モデル研究の急速な進展により、そのリードを失いつつあります。本研究領域には、NICAMの研究者だけでなく、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)に日本を代表して貢献してきた気候モデルMIROCの研究者、それにアジアモンスーン等のデータ解析に精通した研究者が参画しています。さらには、第7世代以降の気候モデルを担う若手研究者・学生にも対等な立場で参画してもらいます。2つのモデリンググループの協働と融合、および、世代間の競合と継承により世界に先駆けたDNA気候学の実現に挑戦します。

本研究領域の領域アドバイザーはアメリカ、ヨーロッパで第6世代気候モデル研究を牽引するDavid Randall教授(CSU)とBjorn Stevens博士(MPI)、日本の気候研究を長年牽引してきた住明正特任教授(東大)、地球システムモデル開発を統括する河宮未知生博士(JAMSTEC)、地球表層環境の地球史進化研究の権威である田近英一教授(東大)に務めていただきます。世界的競争の中、地球システムモデル・地球史モデル・汎惑星モデルへの展開を視野に入れたモデリング研究と人材育成に取り組んで参ります。

領域代表者 三浦 裕亮
東京大学 大学院理学系研究科 准教授

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