DNA Climate Project

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resolving climate simulation

2023年3月30日

海水温が高いほど台風は強くなる?


台風は熱帯で発生する、非常に強い風を伴った低気圧です。大雨・暴風・高潮を伴うため各地で大きな被害をもたらしており、強い台風はもちろん、弱めの台風や、台風の基準に満たない熱帯低気圧であっても、大雨で重大な災害をもたらすことがあり油断は禁物です。台風の強さは中心付近の最大風速によって測ることが普通ですが、どのようなときに強く発達するのでしょうか。

台風は海から供給される熱エネルギーを使って発達します。そのため、他の条件が同じであれば、海面水温が高いほど多くのエネルギーを得て強く発達する傾向があります。しかしながら、他にもさまざまな要素が台風の勢力に影響を与えており、「海水温はとても高いのに発達しない」というケースもよく起こります。たとえば、風向・風速が高度によって大きく変わると(こうした状態を「風の鉛直シアが大きい」と呼びます)、台風の渦の上部と下部とを別々の位置に流して引き離そうとする効果がはたらき、渦が傾いた台風は発達がかなり抑えられます(図1)。ジェット気流が吹いている場所では鉛直シアが非常に大きいため、海水温が高くても台風が衰弱することがあり、勢力を予報するうえで鉛直シアは非常に重要な要素です。

図1
鉛直シアの台風への影響。台風は直立した構造が最も発達に好都合ですが、鉛直シアが強い場合は周りの風の影響で渦が傾いてしまい、対称性が落ちて勢力が弱まります。

また、台風のまわりの大気、特に上部対流圏と呼ばれる高度15km前後が暖かい時も台風は発達しにくくなります。台風が発達するには、海面からのエネルギーを使って「周りより暖かく軽い空気」を作る必要があるので、周りの空気が元々暖かいと、温度差を作りにくくなって発達がやや抑えられます。地球温暖化が進むと海水だけでなく、上部対流圏も暖まります。これらの台風を取り巻く条件の微妙なバランスに影響されるため、温暖化によって台風の特徴がどのように変化するかを予想することは難しいのです。平均的には、温暖化とともに台風は個数が減るかわりに勢力が増すと考えられていますが、増減が逆転する地域もあると示している研究もあります。このような将来予測は、温暖化の条件を入力した数値シミュレーションで行うことが多いですが、台風を構成する積乱雲の振る舞いを求めるパラメタリゼーション(コラム第一回参照)などを完璧に作ることはできないため、予測結果にも不確実さがつきものです。

更に、台風を取り巻く条件が同じでも、台風自身の都合で勢力が変わることがあります。強い台風は「眼の壁雲」と呼ばれる積乱雲の環を持っており、ここで上昇気流が一番強くなっています。ところが、壁雲の外側にさらに積乱雲の環ができて新しい壁雲となり、前からあった内側の壁雲を壊すことがあります。内側の壁雲が壊されている間は台風は発達することができないため、「海水温・鉛直シア・上部対流圏の温度などは全て発達に好都合なのに、なぜか発達が止まる」といった状況になることもあります。このような壁雲の入れ替わりは通常の衛星画像では事前に捉えることができないため、雲の中を透かして見られるマイクロ波を使った観測や、直接台風内部を測る航空機観測が必要です。


参考文献
Sugi M., H. Murakami, and J. Yoshimura, (2009). A Reduction in Global Tropical Cyclone Frequency due to Global Warming. SOLA, 5, 164-167.

研究参画者 山崎 一哉
東京大学 大学院理学系研究科

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